国内有数の林業地、吉野

「吉野林業」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
木材生産や林業に関わる人なら誰もが知っている国内でも最も有名な林業地を示す。奈良県吉野郡内の吉野川、北山川、十津川の各流域3町10箇村に成立する林業の総称であり、密植、多間伐、長伐期施業によって、無節、通直、色味と木材加工で求められる要素の全てを満たす木材を供給することで、吉野杉は国内で最も高い評価を得るブランド材となった。

天川村との出会い

吉野郡にある天川村は、修験道の開祖役行者(えんのぎょうじゃ)が拓いた大峰山があり、世界遺産登録されている。大峰山の麓にある洞川(どろがわ)地区には、木造の趣のある宿坊が軒を連ね、ノスタルジックな風景が訪問客を迎えてくれる。また、芸能の神様として有名な「天河神社」もある。

その「天河神社」の横に村営温浴施設「天の川温泉」がある。吉野で意欲的な活動を展開する谷林業さんが手掛ける「山と温泉」プロジェクトの拠点だ。
この温泉に薪ボイラー(道志村と同じ機種であるガシファイヤー)が導入されており、バイオマスエネルギーを起点に林業活性化を行なっていく試みが実行中である。

天川村には公共温浴施設が、3箇所(天の川温泉、みずはの湯、洞川温泉)あり、残るみずはの湯、洞川温泉への薪ボイラー導入について、薪の供給量や採算性、事業設計に関する調査を引き受けることになり、平成29年度に天川村へ通い調査業務をさせて頂いたことが、天川村との出会いだった。

山と温泉|天の川温泉|みずはの湯|天川村
「山と温泉」は、もう一度、山と人、そして地域の良い関係を築くために生まれた施設。温浴事業を通して、豊富にある地域の資源を上手に活用し、地域コミュニティーの場としての「おふろ」を復活させ、林業・地域を元気にしていくことを目的としています。みんながお風呂で温まり、癒され、それが山にとってもいいことになる、そんな温かな循環モデル。「山と温泉」が紡いでいく「山と温泉の幸せな物語」、ぜひ皆様にも見守っていただければ幸いです。

森林政策課課長、豕瀬(いのせ)さん

天川村のことは、前から気になっていた。村内から間伐材を収集する木の駅と、天の川温泉の薪ボイラー、観光業を組み合わせ、林業を若手の生業として育て、築く取り組みを、村の住民、民間事業者、行政が一丸となって取り組んでいるからだ。
その姿勢が、めちゃくちゃアツいのだ。
村では、一般社団法人天川村フォレストパワーを立ち上げ、行政職員も自ら薪を割り、山に入り、地域おこし協力隊も活用しながら、使えるものは全て使って、新たな産業の創造に取り組んでいる。

たとえ吉野といえども、国産材需要がこれだけ低下してしまえば、林業が経済的に成立しない。その点は、国内各地の山が直面する現状と同様なのだ。天川村で、森林政策課課長の豕瀬さんから直接、実態を聞いた時、深く考えざるを得なかった。吉野でもそうした状況であるならば、ブランド林業地ではない道志村は、単に木材を売るという直線的な方法論では現状を打破できないのではないか。だから、バイオマスエネルギーに取り組んだわけだが、それでもまだ足りない・・・。

天川村の木の駅、薪ボイラーの話はまた別記事で紹介するとして、豕瀬さんとの出会いは、自分にとっても本当に貴重な経験だった。大きな身体で、いつもニコニコと、アツくて論理的なお話をしてくださる。「大野さんのやってることは、とても大事だよ。」と常に言ってくれる。それがどれだけ心に滲みることか。
その豕瀬さんから、天川村で搬出講習をやりたいから、ぜひ、来てくれないか。と打診があり、今年の3月、車にすべての機材を詰め込んで、天川へ出発した。

一般社団法人天川村フォレストパワー協議会:一般社団法人農林水産業みらい基金
その色の木は、これからも、村の希望だ。

小規模搬出講習

天川村は、尊敬する清光林業の岡橋さんや、愛媛大学・泉先生、中部大学GIS専門家の竹島先生など林業業界でトップクラスの方が多く関わる場所。その地で、自分ごときが講師となって教えるなんて、正直、恐れ多い。そう思ったが、豕瀬さんから「木の駅を開始して、4年が経ち、これからは山主さんが搬出しやすい場所だけではなく、少し奥に入って集める必要がある。だから、小規模で簡易的に搬出ができる方法が必要だ。」という話を聞いて、自分も参加者の皆さんから勉強させてもらう気持ちで引き受けた。

今回の搬出講習は、森のエネルギー研究所、日本森林技術協会が事務局を務める「エコシステム」の制度を活用して実施するもので、森エネの後輩や、以前に滋賀県日野町で搬出講習を手配した頂いた森林技術協会の方とも一緒なので、結果的には、本当に有意義な機会となった。

天川村 | 天川村森林塾
天川村森林塾は天川村の森林や林業に関心のある方々が共に学ぶ現場重視の技術訓練システムです。皆さんお気軽にご参加ください。

山主さんが続々と軽トラで・・・

天川村で前日入りして、作業現場を下見。民泊の宿に泊まり、関係者と打ち合わせ。
講習当日、搬出する材を用意するために、開始前にスギを伐倒することになった!
吉野材を伐倒するなんて、チェンソーを持つ手が震えてしまいそう・・・。
当日、朝早く現場へ行き、4本の劣勢木を伐倒。1本、かかり木になり、チルホールを使い無事終了。
搬出システムの輸送、セッティングを済ませ、なんとか、講習開始時間の10時に間に合った。

皆とほっと一息ついていると、作業道の下側からエンジンの音が聞こえてくる。
見渡すと、軽トラが続々と道を登ってくる!こんなに沢山の人が集まってくれたんだ!しかも、天川村の山主さん達。胸の中にアツいものがこみあげてくる瞬間だった。

山主さん達の軽トラが続々と
講習開始の挨拶
講習場所の山林
搬出システム(下げ荷)

山主さんと一緒に搬出ができる喜び

講習が始まると、雪が降ってきた。それでも、皆、真剣に話を聞いてくれる。
集まった方々は、村内のベテラン山主さんや林業を営んでいる方々。
高齢の方々が多かったが、斜面を登る足取りは軽い。自分が作業を行なっていると、みなさん、積極的に手伝ってくれた。
今回、実施したのは、ポータブルウインチと、スタティックロープでシステムを組み、上げ荷(材を斜面上方から下に降ろす)と下げ荷(材を斜面下方から上に引き上げる)の搬出方法。
このシステムは、土佐の森方式や、マッシュプーリーなどこれまでに経験してきた搬出技術の要素を組み合わせ、独自に発展させてきた。小さなシステムでも4m材を集積できる。

これなんだよな!本当にやりたかったことは!
山主さんが自ら自分の山を手入れし、材を有効活用する。そのサポートが自分のミッション。道志村ではこの状況を作れていないことに忸怩たる思いを抱えつつ、天川村で理想が実現に変化したことに驚く自分がいた。

特に嬉しかったのは、一緒に作業していると、おじいさん達が慣れた手つきでシステムをどんどん改善してくれたこと。ロープをプーリーにかける位置、材の移動や回し方など、年季を感じる動作で軽やかに材を扱っていく。やはり自分にとって最大の学びとなった。

集合写真を撮って、無事、講習は終了。
その後、木の駅でチェンソー等道具のメンテナンス。森林政策課の豕瀬さんや宮脇さんが、チェンソーや道具を一緒になって、綺麗にクリーニングしてくれた。その温かい気持ちにまた胸がアツくなる。夕方から宿に関係者が集まり、皆で飲む。天川村の将来や今後の林業の可能性について、深夜まで話が止まらなかった・・・。

皆でシステムの組み方を議論する