一般的に「林業」というと、伐採など肉体労働のイメージが強いけど、実は知的労働が欠かせない。
伐採、搬出もそれぞれ異なる地形に合わせ、一本一本、素性の異なる木を安全に倒し、急傾斜でも搬出がしやすいように造材しなければならない。
チェンソーを適格に扱う技術やかかり木の処理技術、限られた条件の中で効率よく搬出する機材の選定・操作、スカイラインなど搬出システムのセッティングなど、身体的技術ははもちろん、作業を最適化するための知的作業も重要。
さらに、木材を利用するためには作業道がないと山から出せない。そのため、作業道開設・補修がセットになる。この作業はとても奥が深く、専門的な知識・技能・経験が必須。自分はまだまだ。
長年使える、耐久性のある道を作るためには、木組みの技術や水路(排水)を注意深く作らないと、翌年の台風で無残に壊れてしまう。
安全性と作業効率を担保しながら、一定期間で作業を終了させ、目標林型に近づけていくためには、身体と頭脳をフルに駆使することが求められる。そういう意味で、作業の分野だけでも、肉体労働と知的労働が融合していることが、林業の魅力と思う。こうした魅力は、アウトドアアクティビティと共通するものがあるため、林業とアウトドアアクティビティがクロスするポイントを膨らませていくために、もっとDoshi Deer Trailを活用していきたいと思っている。

同時に、施業をセットしていくため、森林経営計画などの制度を使う場合は、県や市町村、山主さんとのコミュニケーション・ネゴシエーション、契約、標準地調査、予算申請、測量、GPS・GIS・デジタルコンパスの操作、実績報告書の作成、作業を分担する仲間の確保、シフト調整、作業の分担、連絡・相談、会計など、高度な事務処理スキルも求められる。事務作業は自分が単独で行うので、一つ一つの作業は単純でも積み重なってくると、処理するためにスピードが求められる。事務を済ませないと現場に出られない。そして、現場で取得したデータをもとに、数々の書類を短時間で作成する作業は、知的労働だ。特にGISを扱う技術はとても貴重。施業現場の位置を把握し、計画を見える化するために、山主さんや作業を行う仲間と情報を共有するために、必須の技術となる。自分の場合、GISをある程度イメージ通りに扱えるようになるまで、2年間かかった。市販の教科書とネットの情報を収集して、作業のひとつひとつを少しづつ習得していく。ちょっと触らないと工程を忘れてしまい、また、学び直すので、時間がかかる。その工程を繰り返すことで記憶に定着してきて、作業が少しづつ早くなっていく。

GISの習得もそれなりに大変だったけど、最も苦労したのが測量。間伐を実施した場所の面積に応じて補助金単価が決定されるので、面積を把握するために測量が不可欠となる。森林簿の面積では広葉樹が入っていたり、実際の面積とかけ離れていることが多いため、現場で小班の周囲をぐるっと1回りする、トラバース測量を行う。獣道か、それすらない場所を歩いていくため、なかなかタフな作業。斜度がきつくても、ガレていても、沢でも進んでいく。誰にも知られることはない、とても地味だがとても重要な作業。

昨年度の施業現場の測量は、本当に大変だった。斜度、方位角、斜距離をデジタルコンパスで測るため、基本的には、反射板を持つ人とコンパスを持つ人で、2人1組で進む。しかし、取得したデータを事務所で測量ソフトに入れて解析すると、クリアすべき精度が出ない。県の基準では1/50以上の精度が求められる。そのため、何度も現場に通って、測量をやり直した。
現場の上空には高圧電線が通っており、電磁波がデジタルコンパスへ与える影響を想定して、マニュアルで方位角、斜度を計測できるポケットコンパスも投入し、ポケットコンパスとデジタルコンパスを併用した測量も行った。扱う機器が増えると、作業が複雑になり、時間もかかる。測点は20箇所を越えるから、集中力も切れてくる。
それでも精度が出ないので、さすがに友人にも依頼しずらくなり、単独でも山に通った。単独で作業を行う場合は、1地点を2往復しなければならない(基準点にコンパスを立てる。測点に反射板を置く。基準点に戻り、コンパスで測量する。反射板を回収し、次の測点へ移動し、基準点にコンパスを立てる)ため、0.5haほどの現場を測量するために3時間ほどかかった。
単独で実施しても精度が出ていない時は、心底、打ちひしがれてしまった。なぜ、精度が出ないのか。どの工程に問題があるのか。次はこの部分を改善してみようと決意し、また、もう一度、初めから同じ作業を行わなければならない。

ある時、南都留森林組合の竹田参事と話をする機会があり、精度が出ないことを相談すると、「現場で、車から降りた後に、コンパスのキャリブレーション(補正)を行っていますか?」と質問された。これまでキャリブレーションは行ってきたが、作業へ出発する前に事務所か自宅で実施していた。早速、現場で軽トラを降りてからキャリブレーションを行い、測量を実施した。1/200に近い精度が出た!竹田参事のアドバイスのお陰。ありがとうございます!

ただ、ポケットコンパスの方位角と比較すると、少しずれている。この時、鹿島くんと現場にいたが、二人で相談しながら、デジタルコンパスにセットしていた地磁気の標準偏差が問題であることを突き止めた。結果的に、偏差を入力しなくてもデジタルコンパスが補正していて、入力値を修正すると、ポケットコンパスが示す方位角と同じ数値にぴたりと一致した。こうして、測量の精度が確保され、それから、再度、4箇所の測量を鹿島くんとやり直した。彼は自分が苦境から抜け出すサポートをしたいと、週1回、ボランティアで測量に参加してくれていた。以下にアップした動画は、最後の4箇所の測量の様子。

経営計画の作業は、測量につまずき、1年間工程が遅れてしまった。来年度、さ来年度でこの遅れを取り戻す。

本当に感謝しているのは、前田くん、てるきくん、鹿島くん、粟野くんなど測量作業を手伝ってくれた友人たち。県の検査は来週月曜。ようやくここまで来た。
今回の施業では、人件費や備品等の支出が合計で約100万円。それに対して、補助が60〜70万円。赤字だが、次回以降の施業地は路網が近くにある場所が主体となる。今回は、路網がない箇所で、路網から300m奥の場所から100mを3ピッチ刻んで50m3を搬出していた。それでも、Deer Trailの上級者コースがある周辺の山林を明るくし、間伐後の山林をツアー参加者に見てもらうために、実行した。次回は赤字にならないよう、設計しなければ!

経営面では、マイナス。でも、やっぱり山は諦められない。どうにか、この価値を引き出したい。
木材生産のみではなく、森林空間利用、バイオマスエネルギー、マテリアル利用も。
日々、毎日、そのことを考える。

てるきくんと
前田くん
粟野くんと