僕は田舎者でして、都会で一人暮らしをはじめてからも、

家の鍵を閉めたことはなかったんですね。

家に帰ると友人がシャワーを浴びていたり、何日か家を開けると何やら宴会をした後が部屋にあったり、

6畳に大の男が8人寝る時は、部屋の端から端まで、

皆スペースをとらないように横を向いて寝るという知恵を自然と身に着けました。

それは通称「餃子スタイル」と呼ばれていました。

朝起きるとじゃんけんで負けた人が一人、日払いのキッツいバイトに行って皆の飯代を稼いでくるという日々。

通称「生け贄」と呼ばれていました。

そのように誰かしら出入りする家でしたから、鍵などかけたことがありません。

間違えて鍵をかけて出掛けたときは、

「鍵がかかってて入れない!」と電話が来るという始末。

おちおち異性も呼べません。そこは男だらけの無法地帯。それが我が家でした。

そんなある日の夏休み、仲間たちはみな福島に帰るわけです。そしてまたあっちでもいつものメンバーと会うという男子高ノリ。

そんなある日、
夏休みでしばらく実家に帰省してから、久しぶりに都会の自分の家に帰った時のことです。

久しぶりに1人。何だかソワソワする夜でした。

僕がぐがーと寝ていると、夜中に玄関がガチャっと開いた音がしたような気がして、

ん?と目が覚めました。

学生が住む狭いワンルームマンションですからね。足元数メートル先に玄関があるわけです。

横になったまま、数メートル先の足元の玄関に目をやると、

1センチくらいの隙間から、誰かがこっちを見ていたんです。

こっちは真っ暗ですよね寝ていたわけですから。

玄関からうす明るい外の光が入ってきていて、

誰かがジッと見てるわけですよ。

わずか1センチぐらいの隙間から、暗い部屋の中を確認しているんでしょう。

ドキっとしましてね。一瞬、固まりました。

「なんだ今日はいるのか。ちっ。」

何者かがそうボソッと言い放つと、ドアを閉めたんです。

ガチャン…。

え?

え?

ええーっ!?

と我に帰った僕はダーッと玄関に行き、穴から外を覗くと

ホームレス風の男性が両手にいっぱい荷物を引きずって階段を降りていきました。

さすがに、ビビって数日は鍵をしめましたね。

都会こえーと思いました。ホームレスが夏休みの間に住み着くんですよ?

衝撃の体験でしたけども。都会じゃよくあるのかなと思ったんですね。

女友達なんかも、ベランダ側の窓に変なオッサンが全裸でへばりついてる!助けてー!とか電話来たこともあったし。

都会は魑魅魍魎の世界で、何が起きてもうろたえてはイケないと思っておりました。

っていうか、その話じゃなくてですね。

1つ思い出した話があるんですよ。

またその部屋なんですけどね。高校の同級生が泊まりに来てて、寝てたんですよ。

そんなに暑くはない夜で、ベランダ側を網戸にして寝てたんですね。

珍しく、夜中に金縛りにあいました。

さほど気にせず、また眠ろうとしたら、

ベランダ側に何かがいるんですよ。

人ではない。幽霊というやつですね。

はっきりは見えません。

ただ、なんか黒いカゲがゆらゆらとしている気がする。

洗濯物かなと思ったくらいです。

なんだあれ?と寝ぼけていると、

いきなりガツンと何者かの意識が僕の中に入ってきました。

「取り憑いちゃおうかな?」

って。通りすがりの幽霊が、たまたま僕を見つけちゃった!っていう軽い感じなんです。

全然、僕に恨みがあるとかじゃなくて、本当にたまたま通りかかったという感じ。

わかるんですね、相手の考えている事が頭の中に響いてきたわけです。

「コイツ、俺に取り憑けると思ってやがる」

と思って、来るなら来いっ!って思ったんですね僕は。

ちょっと好奇心で体験してみようと思ったんです。

そしたら、ズズズッて、意識が持っていかれそうになるわけです。

「お、おお!これが取り憑かれるっていう事か」と思って、

意識が持っていかれる限界まで体験してから、コレ以上はやられるなと思って、

フンッ!と気を入れて跳ね飛ばしたんですね、

そしたら「ダメだこいつは!」って、サーッと消えちゃいました。

なかなかのパワーでした。それは物理的な力ではないです。精神力といいますか。

それが弱いと、ああやって浮遊霊に取り憑かれるんだなと思いました。

最初は抵抗するのに「ンググっ」と
物理的に力んでたんですけど、どうやらそれは意味がないらしいと気付いて、

入って来ようとする相手の意識ではなく、かき消されそうな自分の意識に集中したんです。

「コレは俺の身体、俺の精神」

そうして一気にフンと押し出す気持ちで気合を入れたら退散していきました。

自分じゃない意思が流れてきて、頭の中で囁きが聞こえるとか、本当にあるんだと思いますよ取り憑かれると。

とりあえず、汗びっちょりで友達を起こして興奮ぎみに話したけど、全然寝ぼけてて取りあってもらえず。

僕もすっかり忘れてました。

まだ10代だったかな〜僕は。

本当に怖いのは幽霊よりも人間でしたね。

そういえば他にもあの部屋では不思議な事が何度かありました。いわく付きの部屋だったのかな。それはまたの機会に!

ありがとうございました!